仕事の電話をしていたら、話がふっと雑談にそれた瞬間がありました。こういうとき私は、聞いてみたいけど聞けずにいたことを、いつも胸にひとつしまっています。その日しまっていたのは、ずっと気になっていた、あの質問でした。
「どうして、53歳の私を採用してくださったんですか?」
口に出すまで、少しドキドキしました。当たり障りのない返事で終わるかな、とも思いました。でも返ってきたのは、想像していたよりずっと正直で、ありがたい答えだったんです。
社内でも、意見は分かれていたらしい
まず言われたのが、「実は、あなたを採用するかどうか、社内でも意見が分かれたんですよ」でした。
正直、「そうだよなぁ」と妙に納得してしまいました。私より若くて、スキルもある人が、ほかにもいたそうです。そりゃあ、迷いますよね。未経験で、しかもこの歳の私を採るかどうか。反対する人がいて、当たり前だと思います。
でも、その「分かれていた」という話を隠さずに教えてくれたことが、かえってうれしかったんです。きれいごとじゃなくて、本当のところを話してくれている感じがして。
決め手は、スキルじゃなかった
じゃあ、何が決め手だったのか。聞いてみると、返ってきたのは、スキルの話ではありませんでした。
ひとつは、それまでにやり取りしたメールと、面接で感じた「誠実そう」という印象。納期のある仕事だから、約束したことをきちんと守ってくれそうかどうかを、いちばん見ていたそうです。
もうひとつは、年齢を重ねているからこその落ち着きと、安心感。「長く付き合っていけそうだと思った」と言われました。社内には息子さんくらいの年齢の方もいるので、肝っ玉母さん的な安心感も、あったのかもしれません(これは半分、私の照れ隠しの想像ですが)。
そして最後は「話したときのフィーリング」。決め手は、社長の勘だったそうです。思わず笑ってしまいましたが、なんだか、それがいちばん腑に落ちました。
「スキルは、やってみないと分からない」という本音
クライアントさんは、こうも言っていました。スキルというのは、多少、話を盛る人もいる。だから、書いてあることやアピールだけでは、本当のところは分からない。実際に仕事をお願いしてみないと、見えてこない部分があるんだ、と。
それに、どんな人でも、絶対にミスはする。大事なのは、ミスをしたときに、それを経験としてちゃんと吸収していけるかどうか。でも、それもまた、実際にやり取りしてみないと分からない。
採る側が、そこまで考えていたのか、と驚きました。スキルの自己申告よりも、つまずいたときにどう動ける人なのか。その「人としての地力」のほうを、ずっと重く見ていたんですね。
私も、さっそくやらかしました
えらそうに書きましたが、私自身、最初から完璧だったわけではありません。むしろ、わりとすぐにやらかしました。
恥ずかしい話、最初の頃の私は、ファイルの送り方や、ZIPファイルの使い方すら、よく分かっていませんでした。やり方を調べて、「これで大丈夫」と思って送ったのに、クライアント側では開けないファイルになっていて。何度か、送り直すことになったんです。
相手が開けないと分かったときの、あの冷や汗。「すみません、もう一度送ります」と謝りながら、内心はおろおろでした。こんなことで呆れられないかな、と。
それでも、投げ出さずに、ちゃんと開けるかたちで届くまで送り直しました。今になって思えば、クライアントさんが見ていたのは、たぶんこういうところだったんだと思います。うまくできなかったときに、ごまかさず、最後までやり切るかどうか。
スキルがすべてだと思っていた、あの頃
在宅ワークを始める前の私は、「スキルがなければ無理」「この歳じゃ相手にされない」と、勝手に決めつけていました。だから、長年やってみたかったのに、なかなか一歩を踏み出せなかった。
でも、実際に採ってもらえた理由は、スキルではありませんでした。誠実さや、落ち着きや、約束を守ること。それと、ミスしても逃げずに向き合うこと。どれも、若さやスキルとは、別のところにあるものでした。
この歳だからこそ、強みになるものがある
落ち着き、誠実さ、コツコツ続ける力。こういうものは、何年もかけて、暮らしの中で少しずつ身についていくものだと思います。だとしたら、年齢を重ねてきたことは、ハンデではありません。むしろ、ちゃんと強みになる。
「この歳からでも始められる」というより、「この歳だからこそ、選んでもらえることもある」。あのとき思いきって質問してよかったな、と、今でも思っています。
もし、年齢を理由に在宅ワークをあきらめかけている方がいたら。あなたのその落ち着きや誠実さを、ちゃんと見てくれる人は、います。だから、大丈夫ですよ。
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